フリーズドライのレバー開発に向けて 猫の食事とビタミンについて:南部和也著

はじめに~猫の食事とビタミンについて~

ビタミンは、健康な生活を維持するために猫も人間もなくてはならない物質です。

その多くは食べ物としてとらなくてはならないものとして存在したり、体の中で細菌や日光により合成されるものがあります。

ビタミンCは、猫の場合腸の中の細菌が作ってくれるので、それを食べ物から摂る必要はありません。

しかし人間はビタミンCを含む食物を食べないと壊血病と言う欠乏症になります。

反対に、人間の場合、ビタミンDは、太陽に当たることで皮膚で合成して作ることができるため、食物でとらなくても欠乏症にはなりません

猫は皮膚でビタミンDを合成できませんから、食物から取らなくてはなりません。

 

肉食動物が、肝臓を食べると言うこと

皆さんはテレビの映像で、ライオンが大きな獲物を倒してそのお腹に頭を突っ込んで、口の周りを血だらけにしているところを、見た事があると思います。

肉食動物であるライオンは、まずお腹を割いて肝臓を食べるのです。これは何よりも栄養の宝庫であることの証なのです。

心臓と腎臓を食べ、横隔膜も食べます。しかし腸は食べません。これは内容物がとても臭くて食べられたものではないからなのです。胃の内容物も草の発酵したもので匂いは強烈ですし、栄養もあるわけではないのです。

筋肉は食べますが、レバー・ファーストです。

 

レバーに含まれるビタミンは

レバーは栄養の貯蔵庫です。多くのビタミンをそこに溜めているのです。特にビタミンAが豊富です。脂に溶けるビタミンとしてAKEDがありますが、レバーにはこの中でもAKDが多く、猫が食べることには大きな意味があります。

水溶性のビタミンである、ビタミンB群もよく含まれています。

B1チアミン,

B2リボルフラビン,

B3ナイアシン,

B6,

B7ビオチン,

B9葉酸、

 

レバーにあまり含まれていないビタミンはビタミンEです。

ビタミンEは脂肪に多く含まれていますので、鳥の皮などを食べると良いでしょう。

 

ビタミンA(レチノール) 視覚維持、皮膚や粘膜の健康、免疫機能の維持 断トツに多い。特に豚・鶏レバーに豊富。
ビタミンB1(チアミン) 糖代謝、神経機能の維持 豚レバーに比較的多い。
ビタミンB2(リボフラビン) エネルギー代謝、皮膚・粘膜の維持 レバーはB2の宝庫。成長や再生に重要。
ビタミンB6 アミノ酸代謝、神経伝達物質合成 鶏レバー・牛レバーに豊富。
ビタミンB12 赤血球の生成、神経の維持 動物性食品中では特に多い。貧血予防に重要。
ナイアシン(B3) エネルギー代謝、皮膚や消化器の健康 鶏レバーに特に多い。
葉酸(B9) DNA合成、胎児発育、造血作用 妊娠期に重要。レバーは極めて高含有。
ビオチン(B7) 皮膚・毛・爪の健康、脂質代謝 動物の肝臓に多い。
ビタミンD カルシウム吸収促進、骨形成 魚肝油に多いが、哺乳類のレバーにも少量含まれる。
ビタミンK 血液凝固、骨の代謝 少量ながら存在。

水溶性ビタミンと脂溶性ビタミンの違いは

水溶性のビタミンは、水に溶けますから身体中に分布していますし、余分になればオシッコから速やかに排出されます。脂溶性は油と共に存在するためにオシッコからは出て行くことはほとんどありません。体から出てゆく時にはとてもゆっくりと時間をかけて外に出ます。

つまり、水溶性ビタミンと脂溶性ビタミンの違いは蓄えが効くかとられるかと言うことになります。蓄えやすいのが脂溶性で、あまり蓄えられないビタミンが水溶性という解釈で良いでしょう。

 

 食べ過ぎたら過剰症になるのではないかと心配する人へ

蓄えが効くビタミンということは、もともと毎日は手に入らないものなので食べられる時に食べて蓄えておこうという発想です。ですからそれを大量にとれば過剰症になることが考えられます。ただ、それを恐れるのは、人工的な脂溶性ビタミンを取った場合です。

食物から取る場合は、よほどのことがない限り脂溶性ビタミンの過剰摂取はないといても良いのです。

一番の問題は、サプリや薬剤によって脂溶性ビタミンを、大量に摂る状態です。これは量を間違えて仕舞えば、大量に体の中に入ってしまうことになるからです。

では自然の食事として肝臓から脂溶性ビタミンを、摂った場合はどうか、ネズミを食べる猫の食性から考えてみましょう。

リビア山猫と猫は生物学的にも同じ生物です。リビア山猫は乾燥した地域にそれぞれが餌場を持っていてそこを中心にテリトリーを持っています。つまり食べられる獲物が取れる地域に一匹づつ生息していて、そこで暮らしているのです。

野生の猫も、人間と生活地域を共に暮らしていますが、ハツカネズミなら1日十匹ほどって食べます。ネスセミ一匹が20グラムとして、肝臓の重さは1グラムです。つまり猫は毎日肝臓を10グラム食べていることになります。

ここで、キャットフードの基準でビタミンAについて考えてみましょう。

アメリカのAAFCという組織がキャットフードには猫が食べる1日分の量にビタミンAが

約140 µg(0.14 mg)

含まれていなければならないと定められています。これは健康を維持するには最低これだけは必要であるという意味です。

それでは先ほど仮定した10匹のネズミの肝臓の重さからビタミンAの量を換算してみましょう。

1,100〜4,400 µg (1.1〜4.4 mg)自然の肝臓ですから含まれる量には当然違いがあります。

これはAAFCOの定める最低量の7.9倍から31倍にもなります。

仮定値(肝臓10匹分) 猫の必要量との比較 猫の必要日数換算
1.1 mg(1,100 µg) 7.9倍 約 8日分
2.2 mg(2,200 µg) 15.7倍 約 16日分
4.4 mg(4,400 µg) 31.4倍 約 31日分

 

このように総合栄養食の栄養基準から考えると自然の猫はビタミンAの過剰摂取になってしまうようです。ここに数字で示される基準値と実際の猫が摂取するであろう、ビタミンの量に違いが出てきてしまうのです。

つまり栄養学的に出された基準値は生きてゆくための最低のラインで、それ以上摂っても過剰症とはいえないということです。

これは人工的に作られたビタミンと自然に含まれるビタミンの違いなのかもしれません。

科学的には同じものではあるのですが、何かが違うのかもしれないのです。

最後にまとめると

肝臓をどのぐらい食べたらいいのだろうという答えには、1日10グラム

一週間で70グラムと言うことになります。

これは、キャットフードの基準から考えると大きく異なりますが、自然の摂理からの結果です。

飼い猫に肝臓を食べさせることは栄養学的にもとても意義のあることです。

10グラムずつ毎日食べさせてもいいですが、一週間に一度は思い切り食べてもいいと思います。

ただ、レバーをそれなりに食べるとお腹が緩くなる猫もいます。そのような猫には、一回の与える量を調節してあげてください。


南部和也 獣医師・作家
1960年、東京の八丁堀で生まれる。北里大学獣医学部卒業。南房総で動物病院を開業する。五年後、病院を閉めて渡米、帰国して三鷹でキャットホスピタルを始める。五年後、病院を千駄ヶ谷に移す。2025年、二十五年間の営業を終了し船橋の古民家で新たにキャットホスピタルを始める。著書に「ネコのタクシー」シリーズ(福音館)「ネコのホームズ」シリーズ(理論社)「ルイの冒険」(講談社)絵・宇野亞喜良・田島征三などがある。